SONAS IoT/DX Lab

IoT・DXに関する用語や技術の解説、事例やニュースの紹介を行っていきます。

よくある「IoTとは」と、提唱者の考えたIoT

 ソナスの滝澤です。
 これまで幾つかの記事でDXについて解説してきましたが、今回は本サイトのタイトルにあるもう一つの言葉、「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」について解説してみたいと思います。
 
 IoTという言葉もDXと同様にバズワードと言われてきました。ただ、個人的には学生時代に無線センサネットワークを研究していた頃にIoTという言葉が流通し始めたため、自分の中では「IoTとはこういうもの」という具体的なイメージがありどちらかといえばDXの方がつかみどころのない概念という印象を持っていました。
 
 が、しかし。
 今回「DXの次はIoTの記事だ」と改めて各所の解説に目を通してみて、その解説がバラバラで、かつ私自身が捉えるIoTのイメージともズレるものも多く、IoTはバズワードだったのだなと実感しました。
 そこで、まずはDXと同じように世間一般の最大公約数的な概要の説明とIoTという言葉の初出について紹介したいと思います(具体的な定義は各所でバラバラのため、今回はまとめません)。

 初出の話は様々な解説記事であっさりと紹介されていることが多いですが、調べてみると提唱者のKevin AshtonのIoTについての考えが非常に興味深かったので、今回は是非そこに重点を置いて紹介したいと思います。 

 

 

 IoTとは(大雑把に)

 冒頭でも挙げた通り、IoTは「Ionternet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。
 従来、インターネットはパソコンやスマートフォン(IoTという言葉が生まれた当時だとPDA端末と呼ぶべきかもしれません)などの情報端末が繋がっていて、情報を発信するのも収集するのも人間でした。
 そこに様々な「モノ」がインターネットに繋がり、モノ自体が情報を発信したり収集したりすることで新たな付加価値が生み出される、というのが「Internet of Things(モノのインターネット)」という言葉の意味するところです。

 令和元年版の情報通信白書によると世界のIoTデバイスは2018年で307億台であり、2021年にはおよそ1.5倍の448億台になると予測されています。人間の数よりもずっと多くのデバイスがインターネットに繋がるようになり、それが今後も増えていくということで、成長分野として期待されています。

※情報通信白書のこの統計におけるIoTデバイスの定義は「固有のIPアドレスを持ちインターネット接続が可能機器」で、「コンピュータ」分野にPCやサーバ、「通信」分野にスマートフォンやNW機器など、IoTという言葉にそぐわない機器もカウントに含まれています。しかし、今後の成長予測は「コンピュータ」の台数は横ばい、「通信」の台数は鈍化となっており、140億台の増加分のほとんどは「自動車・輸送機器」「医療」「産業用途」といった実際にIoTと呼ばれる分野が牽引する形になっています。

 

 私の記憶では、学生として無線センサネットワークを研究していた2010年頃はまだIoTという言葉はあまり使われず、ユビキタスネットワークと呼んでいました。2012年に就職した後、少し経ってからIoTという言葉をネットワーク分野のビジネスニュースで耳にするようになったかと思います。

 ふと気になって野村総合研究所のITロードマップの表紙に書かれたキーワードを見たところ、2015年版~2017年版に「IoT」がキーワードとして載っています。それ以前は「スマートシティ」「M2M」「マシンデータ」などが近いキーワードとして見えます。
 

似た意味の言葉

 上記のようにIoTに類する、また近い分野で使われる言葉が幾つかあります。

ユビキタスコンピューティング(ユビキタスネットワーク)

 「ユビキタス」とは「遍く(あまねく)」という意味です(「遍く」自体が分かりにくい言葉かもしれませんが、空間のあらゆる所に広く行き渡っているというニュアンスです)。ユビキタスコンピューティングとは世界のあらゆるものにコンピュータが組み込まれ、ユーザーが意識せずにその情報処理能力を活用した恩恵を受けられることを指します。

 ユビキタスネットワークはあらゆる場所であらゆるモノが利用可能なコンピュータネットワークを指し、ユビキタスコンピューティング実現に必要なものとして無線ネットワーク研究の目指すところとされていました。
 ユビキタスコンピューティングという言葉は、ほぼそのままIoTという言葉に置き換わったと言って良いと思います。

M2M

 Machine to Machineの略で、機械同士の通信という意味です。重箱の隅をつつけば通信というのは何であれ機械同士がするものですが、ここでは特に人間が関与することなく機械自身が自律的に通信して制御を行うような場合を指します。
 M2MとIoTの違いはIoTを具体的にどう定義するかによっても変わってくるのですが、M2Mは機械同士で完結するのに対しIoTは情報発信や制御に人が介在する余地があります。またM2Mの「Machine(機械)」については建設機械・工作機械・自動車・家電製品など大きなひとかたまりの「機械」単位のイメージで、IoTの「Things」は機械の中にあるセンサやアクチュエータだったり機械以外の環境センサだったりとM2Mより細かな「装置」単位のイメージの違いを持たれる方も多いかもしれません。

スマート○○

 「スマートシティ」「スマートグリッド」「スマートビルディング」「スマートホーム」「スマート家電」など、情報処理能力と通信能力を持たせて対象を高度化したものが「スマート○○」と呼ばれています。

 IoTという言葉との関係はIoTが対象分野を限定しない基礎的な技術の話であるのに対し、スマート○○は対象分野を絞った技術の応用の話であり「IoTによって実現するスマートシティ」のような言い方ができます。またスマート○○を実現する技術はIoT以外にも存在します。

 

提唱者の考えたIoT

 「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)という言葉は、RFID(無線IDタグ)のコンソーシアム「Auto-ID Center」の創設者であるKevin Ashtonが1999年に初めて使ったとされています。
 多くの解説では初出についてはこのくらいの情報で留まるか、Wikipediaなどには「当初はRFIDによる商品管理システムをインターネットに例えたものであった」などと記載がありますが、Kevin Ashton自身のIoTについての考えも今日語られるIoTに通じている、ということが分かりましたのでここで詳しく紹介したいと思います。
 
 2009年6月のRFIDジャーナルにKevin Ashuton自身が寄稿した「That 'Internet of Things' Thing」という記事で、彼はP&Gに在籍していた1999年にプレゼンテーションのタイトルとして使用したことを紹介していますが、この言葉はRFIDをサプライチェーンに活かすアイディアと当時ホットなワードだった「インターネット」という言葉をリンクさせて経営層の目を引くためだけでなく、とある洞察をまとめたものだった、と述べています。

※ちなみにこの記事こそ先に挙げたWikipediaの「当初はRFIDによる商品管理システムをインターネットに例えたものであった」という記述に出典としてリンクされているのですが、私が読んだ限りではそのような記述は見つかりませんでした。
 
 記事より彼がInternet of thingsという言葉に込めた意味として解説している内容を一部抜粋します。

But what I meant, and still mean, is this: Today computers—and, therefore, the Internet—are almost wholly dependent on human beings for information.

(しかし私が(Internet of Thingsという言葉を最初に使った当時)言いたかった、そして今も言いたいことはこれです。
今日のコンピュータ、すなわちインターネットは、情報についてほぼ全てを人間に依存しています)

Yet today's information technology is so dependent on data originated by people that our computers know more about ideas than things.

(今日の情報技術は人間が生み出すデータに依存しており、我々のコンピュータは"things"よりも"idea"についてよく知っています。 )

If we had computers that knew everything there was to know about things—using data they gathered without any help from us—we would be able to track and count everything, and greatly reduce waste, loss and cost.

(もし我々の助けを借りずに"things"についてのデータ収集を行って知るべきことを全て知っているコンピュータがあったら、我々は何もかもを追跡したり数えたりして、無駄や損失やコストを大幅に減らすことができるでしょう)

We need to empower computers with their own means of gathering information, so they can see, hear and smell the world for themselves, in all its random glory. RFID and sensor technology enable computers to observe, identify and understand the world—without the limitations of human-entered data.

(我々はコンピュータに独自の情報収集手段を持たせてやる必要があります。そうすればコンピュータは自分自身で世界を見て、聞いて、嗅ぐことができます。RFIDとセンサー技術はコンピュータに、人間の入力したデータという制約なしに世界を観測し、識別し、理解することを可能にします) 

 Kevin Ashtonの考えた「Internet of Things」は、RFIDやセンサーによってコンピュータが人を介さず"things"のありのままの情報を収集する、というのが主眼だったようです。
 これは私の想像に過ぎませんが、例えば当時物流管理をコンピュータで行う場合、商品の入荷数や出荷数などのデータは人が入力する必要があったはずです。そうすると、商品を確認したり数えたりする手間もありますし数え間違いや入力間違いも発生します。それをRFIDにより何が幾つ出入りしたかをコンピュータがそのまま読み取って数えるようにすれば確認の手間や間違いはなくなる、というのがスタート地点で、そこからより一般化して考えたのがKevin Ashtonの「Intrenet of Things」という言葉だったのではないでしょうか。

 

まとめ

 「IoT:Internet of Things」について一般的な概要と、初出であるKevin Ashtonの考えを紹介させていただきました。
 今回紹介した「That 'Internet of Things' Thing」の中で、彼は「私がおそらく『モノのインターネット』という言葉を最初に使った人間であるということが、他人がこのフレーズをどう使うかをコントロールする権利を私に与えてくれているわけではありません」と述べており、当初の意図にない意味で使われているのは事実なのでしょう。

 ただ、今日ではIoTの意味は拡大しているものの、彼の考えたIoTの本質から大きくブレたわけではないと、私自身は「That 'Internet of Things' Thing」を読んで感じました。

 

 今回、IoTの具体的な定義は各所でバラバラなのでまとめないと書きましたが、それらは各々がIoTという概念の中核に何を据えているのかによって違いが生まれているのではないかと考えています。次回記事ではその辺りを整理できたらと思います。